【インタビュー】2020年グランプリ受賞者、HAMUさん
コピックアワード2020で見事グランプリを受賞したHAMUさん。
コピックアワードの賞品がコピックスケッチ全358色セットと知り、ワークショップで子どもたちにたくさんの色のコピックを自由に使ってほしいから応募した、と仰っていたHAMUさん。賞品が届いた2020年11月にインタビューに伺いました。
ー改めて、コピックアワード2020 グランプリの受賞おめでとうございました!
HAMUさん:ありがとうございます!グランプリと聞いたときはとても嬉しかったです。家族や両親、友人、制作活動を応援してくださっている皆さんにとても喜んでもらえました。喜んでもらえることがさらに嬉しかったです。
ーアトリエに入ってすぐ、大きな絵が2作品もあって圧倒されました。この作品はどんなきっかけで制作しはじめたのでしょうか?
HAMUさん:毎年2枚は大きな絵を描くようにしていて。右の絵は、コロナの影響で世間が暗かったのもあって、観てくださる方が明るい気持ちになる色が使いたくて黄色(ハッピーイエロー)をメインにした絵を描きはじめました。コロナのイメージ写真を明るい印象に置き換えたくて丸とトゲトゲをカラフルに表現してます。
左の絵は、私自身がカフェなどの窓から見える緑の木々に癒されることが多くあって、絵でも緑を届けたくて。たまたま家の横の広場で100本くらい四つ葉のクローバーが生えていたので、絵を観る人に「いいことがありますように」とコラージュしたり、額の木の節の穴にドライフラワーを飾ったら、時間によって植物の影のシルエットが生まれてキレイで。これは自然の力を借りている作品です。
1点だけだと気合が入りすぎた絵になることが多いので、2点を同時に制作しています。調子が悪いときはもう一方に手をつけて、調子が乗っている時の勢いでどちらも描けば、両方とも仕上がりが気持ちの良い絵になることが多い気がしています。
ー最初に受賞の結果をお知らせしたリモートインタビューのときは「ただの主婦です」と仰っていましたが、経歴やこれまでの作品を拝見させていただくと全くそうは感じられません。アーティストとしての活動はいつ頃からされているのでしょうか?
HAMUさん:高校生のころ、休みの日に気になることを色々と実践していたのですが、その1つに絵を高架下の路上で販売してみるというものがありました。その後、古い小さな校舎と構内の大きな樹に惹かれた美術系の専門学校に通いました。100号の絵をコンペに出す授業があって、初出品で賞もいただけたこともありますが、それを描くときがとても楽しかったので、その時から大きな絵が好きです。
卒業後も、個展やグループ展に出したり、路上で絵を販売したりと色々していました。「絵」といっても、絵本やイラストレーション、デザイン、ギャラリーなど色々な業界があるので、1つずつボランティアや紹介などで勉強しにいったり、有名な方に会いにいってみたり、自分の惹かれるものをずっと探していました。どの世界も魅力があって、でも自分にはピンとこなくて……。絵はずっと続けると決めてましたから、絵の収入は臨時収入というかボーナス的にもらって、生活はアルバイトで、清掃業や飲食業で料理を作ったり、動物園スタッフのお仕事をしたりしていました。自分が経験してみたい、ウキウキする仕事をしてました。
ー絵に直接関係のない業界も積極的に関わってみたのですね。学生の時の作品は、今の作品と作風も全然異なりますね。
HAMUさん:絵の世界以外の、いろんな職種の人に学ぶことはとても多かったです。農業か絵か、どの道にいこうか高校を卒業する時に本当に人生に迷って。明日死んでも後悔しない生き方は?と、絵を選びました。本当は両方やりたかったんですが、体質的にも難しくて。絵を描くときにはいろんな仕事の経験や、いろんな人の体験談が関与しています。
20代の最初のころは絵が暗かったかもしれないです。お金もなくて、鉛筆やペンや墨だけで描いた時期はモノクロでした。この絵は、授業でテーマに沿った成果物を作って評価を得てもどうしても納得できなくて、ラフも描かずに好きに描いた作品です。30代の年に子どもを産むという機会をいただけて、人って産まれたらそのままで愛されるんだと赤ちゃんに教わってから、なぜか絵がカラフルになりました。
ー好きに絵を描くようになってから、制作活動がしっくりくるようになったのでしょうか。
HAMUさん:しっくりはなかなか来なくて。素敵な表現者はいっぱい居るので、自分の苦手なことはそれが得意な表現者にお任せして、自分は興味のあることを自由にやってみることに興味があったんですよね。
だから、審査員の松下さんや津森さんに「絵を描くのが好きだというのが伝わってくる」とコメントをいただけたのがすごく嬉しかったです。そんなふうに褒めていただいたのは初めてでした。「自分探し」という言葉がありますが、上京して色々なことを経験して行く中で、どれも良いけど、どれもしっくりこない。「居場所はどこにあるの?自分で作り出すってこと?!」と、模索しながら何かにチャレンジするたびに、自分という人にちょっと困ってた時期もありました。今は、その度に自分が絵を好きでいられる選択をしてきた自分自身に感謝しています。
ーいまお住まいの狭山市でのアーティスト活動はいつ頃から始められたのですか?
HAMUさん:出産をきっかけに狭山市に引っ越してきたのですが、その時は描いていることは周囲の人には言っていなかったです。元々は子どもが苦手な私にとって、その(育児の)時間が自分の人生にとって大切に思えたのと、育児が想像以上に大変だったのもあって、絵は息抜きに寝室で描く程度でした。
でも、ふとしたきっかけで絵を描いていることが段々と地域の方に知られていって……絵を描いてと頼んでくださる方がいたり、絵を購入した方がもっと絵を見てもらいましょうと展示活動を提案してくださったりして、段々とここでのアーティスト活動が増えていきました。アーティストという意識はあまりなくて、人として今の私がができることを精一杯しよう、と思っています。
ーインタビューのためにこちらに訪問させていただきましたが、地域の方との関係性がとても素敵だと感じました。「旅するゾウさん」の展示は、とてもわくわくする企画ですよね。アワード応募のきっかけにもなったワークショップはいつから開催しているのですか?
HAMUさん:狭山市でのワークショップは2年くらい前から少しづつです。ご縁があって高橋勇設計事務所の方にお誘いをいただき、現在は事務所で元々されていたフリーコーヒーのイベントとあわせて活動したりすることになりました。あとは、絵の展示先で開催したりもしてます。
ワークショップといっても絵を教えることはなく、今日ご覧いただいたように大きな紙などと色々な画材の用意をするだけで、その環境が楽しそうな雰囲気になることを一番意識しています。あとは自由に好きなものを描いてもらったり、遊んでもらっています。描くことの目的や意味、評価を気にせずに絵のある時間をただ過ごして欲しいです。何を感じるのかも、来たけど参加しないで他のもので遊ぶのも、それぞれで良いと思っています。
ー今日も、丁寧に塗り絵を楽しむ子、大きな紙に計算式を描き始める子、元気に追いかけっこをしている子などそれぞれでしたね。楽しそうな雰囲気に興味をもたれて、ふらっと立ち寄られていく親子の方もいらっしゃったのが印象的です。高橋勇設計事務所さんといえば、事務所の方に依頼されてトイレ内に絵を描かれたんですよね。
HAMUさん:「トイレの中の壁に好きに描いてほしい」と言われて描かせていただいたものですね。高橋勇設計事務所さんには、元事務所内に作品を販売用に置かせていただいたり、コワーキングペースで絵が描けるように貸していただいたりととても応援していただいています。
ーワークショップを開催しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
HAMUさん:小さいころから、「きちんとする」「普通にする」良い子ってなると大人の方々が喜ぶのがすごく疑問に感じていて、やっぱり子ども時代は自由に遊んで、失敗してよくて、ちょっとダメなこともして、それでも周りに受け入れられて、許される時間を体感させてあげたいと思ったんです。それは、アートという枠だとやりやすいなと。たとえば、だれかの描いた線のうえを塗りつぶすとか、紙をはみだして床を汚すとか、親の立場だったら迷惑をかけないように注意すると思うのですが、それもアート!と許してくれる場所があってもいいんじゃないかなと思って、とにかく思いついたことを好きにやってもらえたらという気持ちで場所と道具を用意しています。汚れる前提なので、屋外で開催しています。
ー自分より大きな紙を前にして、色々な色材を使って自由にお絵かきってなかなかできないですよね。
HAMUさん:たくさんきれいな色があるので、もうそれだけで楽しいですよね。子どもたちの、「わ〜!!すごい!!コピック!!」という時の表情がとても良かったですし。何も言わない子でも目をキラキラさせて見つめてたり。これまでも私が持っているコピックをワークショップで使ってもらってたのですが、色に限りがありますし、全色を好きに使えたらもっと楽しんでもらえるだろうな、と思っていたのでこうして念願叶って嬉しいです。
ー応募作品の「silk hat cat」制作エピソードについて教えてください。
HAMUさん:たまたま10号サイズのキャンバスを知人にいただいて、それを使って絵を描いている最中に、SNSでコピックアワードのキレイなバナー広告を見たんです。出してみようと思って、アワードに合わせて描きました。普段はアクリル絵の具で描くことが多いのですが、アクリルにコピックを合わせて重ねていくと綺麗だなと以前から思っていたので、画材が併用可能ということを知って、これはいい機会だと思いました。たぶんあんまりメジャーではない組み合わせかもしれませんが、しっかりコピックの色がのってとても綺麗なんです。
ー10号くらいのサイズの絵はあまり描かれないのですね。ちょうど広告を目に止めていただけてよかったです!普段はアトリエにある絵のように、このくらいの大きなサイズのキャンバスに描くことが多いのでしょうか?
HAMUさん:100号、120号くらいのサイズが開放的で好きです。小さい絵だと上手に描きたくなってしまって線が緊張しちゃうんですよね。小さな絵の時は、少し大きいのに描いてトリミングしてます。コピックアワードの絵も、サイズ規定にトリミングして応募しました。トリミングすることで計画の中に「偶然」を絵に混ぜて仕上げられてとても良いのです。
ーコピックやアクリル絵の具の画材のほかには何を使用されていますか?
HAMUさん:デジタル、アナログにあまりこだわらず色々使っています。日々の絵日記はiPadで描いていますし、デジタルのレイヤーの考え方は、アナログでも応用してます。鉛筆だけで描いたり、描くときに出るゴミも絵に使用したりします。
今描いてるこのキャンバスにも、あえて下地材をあまり塗っていません。発色も耐久度も下がるので本当は良くないのですが、麻のザラザラした感じが可愛いと思えてしまうのと、朽ちてる絵の姿も私が観たくて試しています。
ーHAMUさんの作品を見たりお話を伺っていると、描きたいモチーフがあるから描くというより、絵を描く行為と色が好きでそれをとても楽しまれているのかなと感じます。
HAMUさん:私は色遊びと形遊びをしているだけなのかもしれないですね。小さいころから模写とか興味がないんです。キャラクターとか描かなくて、子どもに「○○描いて」と言われて描いても似てないので、みんなで笑ってます。
色を塗った後に、その絵を離れて観ると「次はこの色をここに使いたい!」と感じるのです。その繰り返し作業をしている感じです。うまく言葉にできませんが、どこに次の手を入れるのか、どの向きにその色を塗るのか……何手先までも想像して、どこに色を置くと圧迫感の無い絵になるのかなと考えながら描いています。
ー今まさにキャンバスに色を乗せていっていただいていますが、コピックの使い方もそうですね。色のラインナップが多いことがコピックの特徴なので、色そのものを楽しんでいただけるのもとても嬉しいです。HAMUさんはグラデーションなどはあまりせず、単色を乗せていくのですね。
HAMUさん:言われてみればあんまりグラデーションや混色はしないですね。画材ってそのままでもすごくきれいですし、絵の具の素材には地球の不思議とか人間の技術が詰まってる感覚があって、インクの色を楽しみたいのであんまり混色しないのかもしれないです。
(乾いた)色を重ねたときの表現が好きなんだと思います。特にコピックは下の色を食わないで色が乗るのがとても綺麗ですよね。100号の大きさに使うのはどうかな?と思いましたけど、結構存在感がでますよね。それだけですごくテンションが上がります。
ー358色がいま手元にありますが、お好きなコピックの色はありますか?
HAMUさん:青緑とかミント色が好きな色なので、BGあたりはすごくうきうきしますね。絵の具だとあんまりない色だなと感じます。
あとやっぱりグレーの種類が多いのが気になりますよね!これまであんまり使っていなかったけど、次の100号サイズをグレーで描くのも楽しいかも。あとは(0000)などの淡い色とか、E系のベージュ系とか、すごく癒し系だなと思います。
ーアクリルとコピックを併用されているなかで、褪色に関してはどう考えていますか?
HAMUさん:自分の絵を雑木林の中で太陽の下で展示することがあるくらいなので、褪色はあまり気にしていません。もちろん買い手の方がどう感じるかは別の話ですが、私は自分の絵を100年、200年先にも残したいという気持ちはあまりないです。今観てくださる方が励まされるような絵にしたいですし、今を生きてる人へ向けての絵を描いていますね。次世代には、次世代の人が描いた作品を楽しんでもらえればと思っています。
10年とか20年経ってどのくらい絵が褪せてしまうかはまだわからないですけど、私はエイジングされた素材がすごく好きなので、そこまで楽しんでいただきたいというのもあります。投資というより、弱くても辛くてもそれも彩りの1つになるよ。というようなエールのような存在の絵でいたいですね。
原画を購入してくださる方には、「子どもが絵を触ってもいいと思っている」という考えに共感して購入してくださる方もいらっしゃいます。手描きの温もりのある絵が家にある、そんな暮らしの思い出が残ったらいいなと思います。「旅するゾウさん」の買い手の方とは、たくさんの人に届けて色が抜けたり汚れたら、描きたして塗りましょうというお話になっています!
ー色が褪せたら塗り足していくというのは面白いですね!その経年も観て楽しみたいです。絵を描くときに気をつけていることや心がけていることはありますか?
HAMUさん:私、美術館とかに行って作品を見ると疲れちゃうんですよね。勝手ながら、作者の思いが込められた作品のエネルギーにあてられるから疲れるのかな……と感じています。メッセージの強い作品は、すごい考えさせられてヘトヘトになります。
私は自分の絵を肩の力を抜いて見ていただきたいので、あまり想いをこめないように描いてます。そうすれば気楽に見ていただけるんじゃないかなと思って。すごいアート作品じゃなくて、眺めてると元気がもらえる作品を心がけています。空間に溶け込んで、作品が心地いい存在になれたら嬉しいです。