コピックアワード2021
結果発表
第4回目となったコピックアワード2021には、昨年の応募数を上回る5000点以上もの素晴らしい作品が寄せられました。
たくさんのご応募をありがとうございました。
受賞作品
グランプリ
準グランプリ
ひと目みて、甘酸っぱいような切ない感情が生まれて、とてもひかれました。一瞬の光、空気、その人を見る感情までもが捉えられています。テクニック的な実験も、とても効果的に作品の世界を作りあげています。
(藪前知子)
画面が動かないカチッと固まった作品が多い中で、動きの中の「なぜその瞬間を捉えた?」というような描き方がすごくいいなと思いました。絵を描く際に画面を崩していくような描き方をしながらも、完全に乱れきらないようにスレスレのところところで上手く仕事をやめている絶妙なバランス感が素晴らしいです。
(松下計)
準グランプリ
イラストを描ける喜びとか、ここにこれを貼ったら楽しい、みたいなものが詰まっている作品だと思いました。自分が小さい頃に初めてシールを貼ったときの楽しさとか、スパッタリングをしてみたときの気持ちよさとか、平塗りをしてみたときの気持ちよさ、みたいなものを思い出せて、脳にグッときました。絵を描く楽しさを思い出せてくれる作品です。
(原田ちあき)
とにかく自由! タイトルどおり(「WE ARE PINK!」)有無を言わさず、大好きなことを大好きなピンクで描いて、見る人全員を楽しくしてしまうパワーにあふれています。コピックを長年使ってきたメンバー(審査員)で見ても、どうやって描いているんだろうとその技術がわからないというところも面白いです。
(根津孝太)
次世代アーティスト賞グランプリ
緻密な線と微妙な色彩の変化で描き出される静かな風景には、その中に描かれた人物一人ひとりのストーリーすら想像させてしまうようなパワーが秘められています。作者の熱量を非常に強く感じる作品!
(根津孝太)
大暮維人 審査員賞
とても魅力的で、すごく好きな作品です。純粋に絵が上手いことに加え、夏の日だまりの中のけだるい感じとか、光の当たっている輝くような雰囲気が特に好きですね。その光の反射っていうだけでもう胸が切なくなります。コピックのユーザーにはマンガやイラストレーションを描いている方が多いと思うのですが、そういうキャラクターイラストを描いている作品を代表して、という理由でも選ばせていただきました。
根津孝太 審査員賞
タイトルは「It's okay to be different.」、ほかの人と違っていてもいいんだよっていう意味ですよね。ウェブ上で絵を見ただけでもパッと目を引かれたのですが、作者の方の書いてくださった作品コメントを読んでいると、作者の感じている「共感覚」の世界観をそのまま作品にした、ということで、更に興味を惹かれました。ちょっと物の見え方が周りの人と違うとか、そういったことで過去に悩まれたかもしれないし、「みんなは違うの?」と思ったかもしれないんですけど、でもそうやって見えてるんだ、ということをひとつの作品として昇華してくださっていて、それがとても素敵な作品になっている。作者の方の背景を含めてとても素敵だなと思って、これを選びました。
原田ちあき 審査員賞
コピックを使った立体作品に興味があり、その中でも作者の中のコンセプトが定まっているように感じるこの作品を選びました。マンモスのかわいい親子であったり、自分の中でキャラクターがどういうものなのか、というものも含めて設定がちゃんとある部分がとても面白いポイントです。私自身カラフルなものが好きで、作品からあふれるハッピーなカラフルさにもとても目を引かれました。
松下計 審査員賞
一つの作品に仕事(描画)を盛り込んでいく、細かい仕事を盛り込んでいく作品が多い中、それとはまったく違ったアプローチだったので、その可能性に一票を投じるという意味でこれを審査員賞として選びました。
コピックによって紙の質を操作する、紙の質を変える、メディアの質を変えるというアプローチをしていたのはこの作品の際立った特性だったと思います。コピックを使って素材を染め上げるように違う紙を作る、そしてそこに絵を描くというアプローチがひとつのコピックの新しい使い方として提案性に満ちていたというふうに思います。
藪前知子 審査員賞
作品の中の彼女自身がはっきり意思を持ってこちらを見返しているようで、とても迫力ある絵でした。書かれているキャラクターがはっきり意思を持っているように見える作品は少なくて、今回の応募作品の中でも異色の作品だと感じました。最初は一見、見られるだけの存在に見えるけれども、それを強い力で見返すという、描いている人のメッセージや女性のパワーのようなものが伝わってきました。絵から感じられる迫力から、作者の気持ちが国の距離を超えて強く伝わってきたということが印象的で、審査員賞にさせていただきました。
pixiv賞
作品の中の要素や利用されているカラーが多く、構成のバランスが難しい中、丁寧に描写されています。
作品をよく見てみると、魚群の中から、かわいらしいキャラクターがちょこんと顔を出す。遠くで見ても、近くで見ても発見がある素敵な世界観に仕上がっていると思います。水の中なのに、どこか温かみを感じる素敵な作品と感じ、今回pixiv賞に選考させていただきました。
SNS賞
アルコールインクアートの偶然性を楽しみながら、それをコントロールし、的確に表現出来る作者のテクニックが散りばめられた素晴らしい作品です。波の表現でも4色のインクを使用しており海の雄大さや透明感、スパッタリングで更なる臨場感や自然の力強さを感じることが出来、見ている側もまるで波の中にいるような感覚を覚えました。
日本ホビー協会クラフト賞
全体構図の美しさとバランスの良さに目が止まりました。
バラの花、葉の色の絶妙な濃淡のつけ方などの技法も素晴らしいと思いました。
作品の隅々を拝見する度に作者の思いが伝わり、一緒に作っているような錯覚を起こしました。見れば見るほど優しい温もりを感じ気持ちが明るくなり、ずっと見てても飽きない作品です。
TCA クラフト賞
エメットの作品が他の作品と違うのは、その完成度の高さ、独自性に富んだコンセプト、そして彫刻的な美しさです。彼女は、物語に裏打ちされたコンセプトを持った、まったく新種の動物を生み出しました。
この立体作品の正面だけでなく、すべての面を見てみたいと思いました。また印象的だったのは、コピックマルチライナーというペンを使って作品に奥行きを出していることです。羽毛にはまさに鳥のようなしなやかさを捉えており、胸や腕、足、耳から生える毛の表現も見事です。
特別賞 Holly Nichols賞
この作品を選んだ理由はたくさんありますが、一番の理由は、描かれている人物の内面の輝きだと思います。キラキラとした光の中にダンサーがいて、水中のなかでダンサーの足がタコと絡み合っています。静けさの中に、喜びと美しい伸びやかさがあり、彼らはただ自由に踊り回り、彼女は大きな笑みが浮かべています。この絵全体からは、喜びが伝わってきますが、ダンサーの周りは暗く描かれています。でも、彼らはまるで周りの景色など気にも留めていないようです。色の明暗だけでなく、主人公の踊り出すような喜びと、深く暗い背景というコントラストにとても惹かれました。誇り高い作品です。私自身もこの作品にとても刺激を受けました。
APACエリア賞
この作品は、マーカーの特性を見事に表現しています。 色のグラデーションや光と影の表現が巧みで、作者の深い描写力と想像力が感じられます。 温かみのある黄色の色調と、黄色と対称的な紫の色調が印象的な雰囲気を醸し出しており、この色彩と黄色の輝きによって、作者はこの作品のテーマを表現しているのだと感じました。
(台湾/AHT)
光と影の表現方法など、幻想的なリアリズムを演出するための多くの優れたテクニックが詰められています。特に、髪と顔は驚くほど緻密に描かれており、こだわりが伝わります。絵の上手さはもちろん、コピックのテクニックが作品をより素晴らしいものにしており、とても才能豊かなアーティストだと思います。
(オーストラリア/X-Press Graph-X)
EMEエリア賞
カラーブレンドがとても美しい、細部まで描きこまれた作品です。光と影の表現が素晴らしいです。過去と未来の接点、新しい技術の役割、過去への郷愁など、取り上げたテーマも大変興味深いです。
(アゼルバイジャン/Ecaz)
「過去と未来をつなぐ。遠い将来、ロボットはイタリアのデザインの車を発見する。」ディテールやニュアンスへの見事なこだわりから、この作品のメッセージが伝わってきます。車の上に布をかけることでオブジェクトのボリュームと元の色が変わるため、その表現は更に難しくなりますが見事に描ききっています。作者の発想と想像力、そしてマーカーのテクニックが見事に融合した作品だと感じました。
(イタリア/Mundel srl)
NAエリア賞
クロコダイルだけでなく、魚や水など細部へのこだわりが際立っています。これだけ細かく描きこみながら、各部分が際立つ構図を作るのは非常に難しいことです。
またロビンソンさんの多様な彩色テクニックは他の作品と比べても抜きんでていたと思います。例えば水面や背景だけでなく、全体的に非常に滑らかなブレンディングが施されていること、水面にはオペークホワイトを使って光の反射で奥行きを出していること、クロコや魚に点描でテクスチャーを加えていることなどが挙げられます。
(US/Too Corporation Americas)
LATAMエリア賞
ハカランダの本質を見事に表現した技法が素晴らしい。この木はアルゼンチンの代表的な木で、もっとも印象的なのはその花の色です。作者はハカランダの花が持つ鮮やかさ、強さを伝えています。本当に美しいです。
(アルゼンチン/Drechsler)
Africaエリア賞
目を引くゴールドの背景と、落ち着いたグレーで描かれた女性とのコントラストが素晴らしいですね。女性のドレスも細部まで見事に表現されています。本物の才能を感じさせる、とても美しい作品です。
(南アフリカ/X-Press Graph-X Supplies)
入選作品
審査員

大暮 維人
漫画家

根津 孝太
デザイナー

原田 ちあき
イラストレーター/漫画家

松下 計
アートディレクター/東京藝術大学 デザイン科教授

藪前 知子
キュレーター/東京都現代美術館学芸員
コピックアワード審査会
レポート
2021年10月某日、コピックアワード2021の最終審査会を行いました。
今年は、昨年から続く新型コロナウイルスの感染症拡大の影響を考慮し、予定のスケジュールを延期して審査会、結果発表を行うこととなりました。
審査会の実施による感染リスクや原画輸送の規制が考えられましたが、やはりコピックアワードの作品は原画で見てこそより魅力がわかるということで多方面にご協力をいただき、原画での審査会開催に至りました。
5名の審査員が悩みぬき、断腸の思いで選んだ作品が一堂に並ぶ姿は壮観です。
作品の数々と対面できて純粋に作品の観賞を楽しむ一方で、さらにここから選ばないといけないという使命に審査員は頭を悩ませました。
今年で3回連続の審査員を務めていただいた東京藝術大学教授・松下計さんは、「回数を重ねるごとに作品のレベルが上がっていて、選ぶのが余計難しかった」と語りました。
今回、感想を聞くなかでキーワードとしてよく上がったのは「デジタルの融合」と「アナログならではの表現」でした。
入選作品の中にも、紙に描いたものをコピーして素材として使用している作品や、最終的にデジタルで仕上げた作品もあり、ツールに囚われずに自分の理想の表現を研究していることがうかがえる作品が昨年より多くありました。
また、逆にコピックだけでどこまで表現できるか挑戦しているような作品も目立ちました。偶然にも、グランプリ、準グランプリの3作品は、補充用のインクであるコピックインクも画材として取り入れた作品で、こんな作品が作りたいという作者の明確なイメージや、アナログ画材の偶然性を楽しむ気持ちが強く感じられるものでした。
原画で審査することが一つの大きなアイデンティティとなっているコピックアワードですが、一次審査ではウェブ上の画像を選んでもらう必要があります。
それについて、藪前さんも「審査で選ばれるかどうかは運も多少あると思います。原画を見たときとで印象がまったく異なった作品もありました。なので、すべての作品に入選する可能性があったと思っています。入選できなかった応募者は、審査員に対して『自分の作品はまだお前たちには早かった(理解できなかった)んだな』と思ってくれて構いません。」と言及されていました。
どの作品が注目されるかは毎回予想ができません。それほど、コピックアワードには多才で魅力的な作品がたくさん集まります。コピックアワードは、応募作品ひとつひとつに未知の可能性があるコンテストだと改めて感じることができる審査会でした。次回開催でも、個性あふれる作品の数々に会えるのを楽しみにしています。
グランプリおめでとうございます。計算され尽くした構図と高度なテクニックに脱帽するとともに、この儚くもエネルギーに満ちた本作は、賞に値する素晴らしい作品であると確信します。
コピックのインク(カラーレスブレンダー)を使ったにじみのテクニックは、コントロールが難しく長い経験と試行錯誤が必要でしょう。私はそこに目には見えない長い研鑽の時間と情熱を感じました。情熱とは全てを凌駕していく強さであり、愛です。この少女の見据える目は、愛に満ちています。
(大暮維人)
このあと 消えゆくような その先の時間を感じさせる描き方それが すごく特徴的だなと思います。その瞬間を固めるのではなく前後の時間を感じさせる絵。コンピューターの中だけではこういう表現はできないですし、インクを垂らしたり画面上で様々な仕事をしています。
(松下計)