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【インタビュー】2019年度審査員 コシノジュンコさん・手塚るみ子さん【前編】

 2020.06.19

コピックアワード2019で審査員を務めていただいた岡田勉さん、コシノジュンコさん、手塚るみ子さん、種村有菜さん、松下計さんにインタビューにお答えいただきました。

応募作品を見る際のポイント、コピックに対する思い出や、近年SNSで作品を公開することに関しての視点など、作品作りをされている方、プロを目指す方など創作活動をされている皆さまに余すところなくお伝えしたいので【前編】【後編】と分けてお送りいたします。

前編ではコシノジュンコさん、手塚るみ子さんのインタビューをご紹介いたします。

コシノジュンコ審査員 インタビュー

コシノジュンコ デザイナー

文化服装学院デザイン科在学中、新人デザイナーの登龍門といわれる装苑賞を最年少の19歳で受賞。1978年パリコレクション初参加。北京、NY(メトロポリタン美術館)、ベトナム、キューバ、ポーランド、ミャンマーなど世界各地にてファッションショウを開催。オペラ《蝶々夫人》・《魔笛》からブロードウェイ・ミュージカル《太平洋序曲》(トニー賞ノミネート) 、スポーツユニフォーム、インテリアデザインまで幅広く活動。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 文化・教育委員、2017年度文化功労者。

 

_作品審査を終えてのご感想をお願いします。

世界中から集まった個性と生き方のバリエーションが作品から見受けられて面白いです。あんなに繊細に描けるのかなっていうような細かい描写をしている上手な方が多く少し戸惑いました。

_コシノさんがいつも見られないような漫画アニメ的な作品も多くあったと思いますがいかがでしたか?

それはそれで一つの時代を象徴しているんでしょうね。それは良いと思います。私は無理には選びませんが、その分野に特化した方が選んで頂いたら良いかと。

_コシノさんが今回どういった視点で作品を選ばれたのでしょうか?

意外と身近にあるリアルなものを絵にすると面白いなと思いましたね。

どんな環境、どんなコンテストであってもまず絵が上手でないと表現出来ないと思うんですね。最初は絵でメッセージを伝えて、そこから色んなカタチになっていくものなんです。それが洋服であろうと、家具であろうと お料理なんかでも、なんであれ。絵が上手ということは第一段階をパスするのに必要な事だと思います。あとは絵心というものが大切だと思う。やはり子供の頃から絵が好きで、絵が上手でそういうものに興味を持っていること。将来的にもどういう方向に行こうが絵は基本だと思っています。

_コシノさん自身は最初は絵描きさんになりたかったとお聞きしましたが?

油絵をやっておりましたね。ディフォルメした強烈なものを描いていたんですが、その一方でグラフィックデザインも好きで、今でいうテキスタイルデザインなども。なのでコピックの色数を見ると、ムラムラっとしますね(笑)昔は30色くらいの色鉛筆やクレヨンをみただけでドキドキしていたけどコピックはもっと色数が多いですからね。今の子が羨ましいです。いい時代だなと思いますね。

_コピックは358色あるんです。

コピックカラーが布になったらどうか?とかね。コピックカラーで何かの素材におきかえてみたらどうなるかとか、紙以外の可能性もありますよね。私の場合はその配色で染色して布にするわけです。私は布に染めた自分の色を1000色くらい持っています。全部日本のシルクです。
なので私はそれを【日本の色】と言っているんです。例えば、赤だったらバラの花びらをそのまま色に染めてもらったり、その辺にある
チョコレートだとかどこからでも色を集めてこれるんですよね。そうやって染めた布のカラーサンプルを長年集めてきて、そこから色出しをするので自分の色になるんですね。ブルーだけでも5センチ分くらいあるんです。切って切って切って…好きな色の布はすごく小さくなってしまっているんだけど、絶対捨てないように持っているんですよ。 
例えばコピックカラーの布を作った時にどうなるか?うちにあるカラーサンプルからコピックカラーを探そうとするとなかなか大変だと思うんです。逆に紙で表現するときに参考になるように紙に塗った塗り見本があるといいですよね。 

_昨今、SNSをはじめとするオンラインで自分の表現をする場が増えたと思いますがそれについてはどう思いますか?

デジタルをはじめ色んな表現方法の可能性がありすぎちゃって、ある程度描かなくて済むっていうのかな、それに慣れてきちゃっていると思います。実際に手で描く表現方法は基本ですから、子供の頃から学校などで基本的な手で描くことをしていれば、いざという時に自分の手が感覚的に覚えているんです。だから手で描く行為は必要なことだと思います。デジタルから入ってしまうとその感覚を知らないのでその後に違ってくると思いますね。

_これからコピックを使って作品を描いてみようと思っている世界各国の若いアーティストたちにメッセージをお願いします。

表現をする事って年齢に関係なく、例えば色を見るだけでこみあげてきて何か描きたくなるような感覚的ものなんです。特にモノトーンで表現する事は難しいと思いますが、色数の多い画材があると(自分でも)描けるんじゃないか、という自信に繋がるので、年齢に関係なく出来るだけコピックのような色数豊富な画材に触れられる環境にあることが大事だと思います。

 

手塚るみ子審査員 インタビュー 

手塚るみ子 プランニングプロデューサー/手塚プロダクション取締役

日本の先駆的な漫画家である手塚治虫(鉄腕アトム、ジャングル大帝、火の鳥など)の長女であり、 手塚治虫氏が亡くなった後、手塚作品のイベント企画プロデュースを始め、自主レーベルを立ち上げるなど多岐にわたり活躍。また、アート展の企画、ラジオ出演、本の執筆、MUSIC ROBITA というレコードレーベルの運営など、さまざまな分野で多岐にわたり活動している。著書に『定本オサムシに伝えて(立東舎)』など。

 

_作品審査を終えてのご感想をお願いします。

事前にデータなどで作品を見させていただいて今日実物をはじめて拝見したんですけど、やはり実物を見るとデータで見たものと印象が全く違うものが多かったです。いいなと思っていたものが意外と人物のインパクトがなかったり、こういう技術で描いていたんだ~とか、改めて新鮮な思い出作品を見させていただきました。

_作品のジャンルが多岐にわたった今回のアワードにおいて、審査で苦労した点は何でしたか?

私自身が絵描きではない為、コピックの何を使ってどうやってこれを描いたんだろうという判断ができないので、技術点では判断が難しかったです。【見た印象・アイデア・ユーモア・インパクト・美しさ・凝っている】という部分については分かりましたので、そういう部分で選んでいくしかなかったですね。

_今回のアワードを通じてコピックについてどの様な印象を持たれましたか?

知り合いのイラストレーターや漫画家さんが使っている姿を見てきて、コピックは絵を描く・線を描くものという印象が強かったんですが今回のコピックアワードで表面をコピックで着彩した立体作品を見たりして、そういう使い方があるんだと非常に斬新に感じました。
色の濃淡やグラデーションを出せるというところが、ペンでありながらも水彩絵の具に近いテクニックも使えるんだという、使い勝手の広さを今回の審査で改めて実感しました。

_コピックアワードのようなコンテストの意義についてどのように考えておりますか?

作家にとっての励みになるものだと思っております。年齢も関係なく若いうちからチャレンジできますし、逆に年をとってからも応募することができる事は良いですね。プロの世界で活躍されている方に認められることは、自分の表現に対しての励みになるかと思います。ただ、賞をもらったことで奢らずに次のステップに行くか行かないかはご本人の想いだと思いますのでぜひ、励みとしてそれを力にして次のステップに進んでいただけたらなと思います。

_デジタルでイラストを描くことも主流になりつつある昨今ですが、アナログで描くことの意義をどのように感じられていますか?

デジタルで絵を描かれる方がすごく増えてグラデーションの細かい色調整がパソコンできたりしますが、人の手で描かれた線や、人の手で塗られた色は最終的にはパソコンでは出ないという風にいろんな作家さんから聞いています。手で描いたものの味わいというのはアナログでしか表現できないものだろうなと思いますね。父・手塚治虫が漫画を描いていた時は、アナログでペンとインクで描いていましたし、だからこそ誰の真似でもないものができたんだろうと感じております。
逆にこれだけパソコンの技術で表現ができる世の中において、あえてアナログで誰にも描けないものを表現するというのはすごく貴重であり注目されるべきものじゃないかなと思っています。

_手塚治虫先生がもし今生きていたらデジタルで描かれていたと思いますか?

そうですね、よく聞かれる質問です。いろいろな先生方がデジタルに挑戦されていますので、多分負けん気の強い父なのでデジタル表現にチャレンジはしたかと思います。ただ、それを習得して作品が出来上がっているか?というところでは何とも言えないので最終的には技術に長けたアシスタントを雇っていうんじゃないかな~と思います。

_昨今、SNSをはじめとするオンラインで自分の表現をする場が増えたと思いますがそれについてはどう思いますか?

その中で表現していくことは厳しいと思いますよね。手塚治虫もファンレターで「面白くない」とか書かれたり、私も娘ながら何も考えずに「面白くない」と父に言っていたり、それくらい世の中の人や子供って正直なんですよ。そのメッセージが耳に届いてしまえば、手塚治虫でもすごく落ち込みましたし「俺なんかダメなんじゃないか」と落ち込んでいた事も何度もあったらしいです。
SNSは言葉を簡単に届けられますし、なおかつ悪意ある言葉も平気で投げかけられる世界になってしまっていて、作家と読者、ファンでも読者でもない方それぞれが本当に距離がなくなってしまっているので自分の作品を表現して世の中に残していく人にとってはとても厳しい時代ですね。
ましてや物を表現する人ってすごく繊細な方が多いので、表現された物が否定される=自分否定という事になってしまう可能性もあるので怖い事です。その中で続けていくには余程の根性と腹を据えた気持ちがないと難しいかなと。あるいはそういう外部の声をシャットアウトするところでやって行かないと本当に難しいと感じます。悪意はないんですけど悪意があるような言葉を本当に簡単にぶつけられてしまうのでね。父が亡くなってからインターネットがすごく普及しましたが、この時代の作家じゃなくて良かったかもと本当に思います。(笑)

_先ほど、手塚治虫先生は負けん気が強かったとお話しいただきましたが、手塚治虫先生のいちファンとして、色んな伝説などについても聞いてみたいと思っております。

やっぱり、諦めないところがありましたんで、その負けん気が持続性に繋がったんだと思いますね。ファンがどんどん世代交代していくと、面白くないと言ってくるファンが増えるわけですよ。例えば大友克洋さんがかっこいいとか、他の新しい作家がかっこいいという意見が増えていく中で、「もう俺はダメだ」と思って筆を折ってしまっていたら手塚治虫はあんなに作品を作らなかったと思うんです。「あいつらには負けない、俺もやれるんだ」と、チャレンジ精神を持って次に行くという事で続けていたと思いますね。漫画家の世界は本当に筆を折る作家が多い厳しい世界ですし、厳しい事も言われます。まして昨今ではインターネットでもっと厳しいことを言われますから、何か言われて凹んでたら続かない世界です。

_負けん気を前向きに消化させる事で継続につなげて行くと、コピックアワードは今後どのようなコンテストになっていったら良いかと思いますか?

自分の表現力と技、アナログデジタル両方の技術をうまく融合させて、どこにも無いような作品にどんどんチャレンジしてほしいなと思います。また、それが仕事に変わっていくような一歩になってもらえるといいなと思います。

_アートを仕事にするという事について何か思うことはありますか?

手塚治虫の場合ですが、漫画家はアーティストや芸術家ではなく別のものだと感じます。若いうちはファッションとして表現したいことが山ほどあって、漫画だろうがアートだろうがそこに情熱をぶつけていけるかと思うんです。ただ、ファッションだけで仕事として人生かけてやり抜こうというのは中々難しいかなと思いますね。

もし仕事になった場合、いろんな人生を重ねていきファッションとして表現したい事がなくなった時に、その先も持続していくことが難しくなってくるかと思うんですね。じゃあ、大人になって何を世の中に描き残していくか?という時に後年の作業として何か新しいテーマを見つけられたら仕事として持続させることができるんじゃないかと思います。人生の中で、ある年代/あるステージに入った時に、違う道を選んだりステージを上げていくっていう事を常に努力したり自分を見直したりということが必要になってくると思います。それができてはじめて仕事として一生物になっていくのではないでしょうか?ただ、アマチュアの方が気持ちは楽じゃないかな?と思います。アートは本当に自由なものでしょうから、思ったことを表現して気持ちを解放してそれが自分の人生においての娯楽になっていく。そこで終わっている場合はすごく楽だと思います。ただ、それを仕事にして生きていくとなるとものすごいイバラの道にぶつかることもあります。

読者や見る側がいるという世界になってきますと、本当に世代世代で見る側の感性が変わってきてしまうのでそことの戦いっていうのがすごく厳しい。その厳しい中でも自分を常に成長させる次のステージは何かという事を考えて、努力をすることを惜しまない方だったらきっと仕事になっていくんだろうと思います。楽しんでいるだけの方が、本当はいいかなとも思いますね(笑)アートですと、趣味にしろなんにしろ自分を解放する事が一番の楽しみじゃないですか。本当にストレスを抱えていらっしゃる方や鬱に近い気持ちの方でも、何かを表現することによって心が救われたり、生きる力になったり、人と接するためのコミュニケーション能力になったりとか様々な事で自分が解放されるというのが「表現をする」「絵を描く事」だったりするんだと思うんですけど、ただ仕事になりますとそれ以上に負担がかかりますし、本当は切り離した方が楽かもしれませんね。

_これからコピックを使って作品を描いてみようと思っている世界各国の若いアーティストたちにメッセージをお願いします。

コピックという1本のペンから自分が心に描いた多様な世界・夢の世界を自由に表現することができます。手塚治虫も本当に幼かった時にペン1本で落書きから始まって、どんどん自分の夢を広げていって最後は漫画家になれたんです。自分の夢を実現する上でも、この小さいペン1本からでも始めることができます。ぜひ、コピックを使って作品を描いて、そこから自分の夢を見つけて更に自分の次の将来の道というものを見つけていってほしいなと思います。

 

コシノジュンコさん、手塚るみ子さん、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。 

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