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【インタビュー】2020年度審査員 松下計さん

 2021.03.24

第5回目は前年に引き続き今年も審査員を勤めてくださった松下計審査員のインタビューです。
通年審査員を勤めていただいたことで、前回との作品傾向の比較やアワード全体を見据えてのコメントをいただくことが出来ました。

前回のインタビューはこちら
【インタビュー】2019年度審査員 種村有菜さん・松下計さん・岡田勉さん【後編】

松下計 審査員 インタビュー

松下計 アートディレクター/東京藝術大学 デザイン科教授(website

1985年東京芸術大学美術学部デザイン科卒、1987年同大学院修了。
1997年にJAGDA新人賞、東京ADC賞、文部科学大臣賞、グッドデザイン賞受賞。
2010年よりグラフィックデザイナー、アートディレクターとして活躍中。

ー作品審査を終えてのご感想をお願いします。

昨年も選考委員をやらさせていただきましたが、昨年と比較してレベルが格段に上がっていたので、ちょっとびっくりしました。上位に残ってた作品はどこに出しても恥ずかしくないようなレベルでした。
すごく皆さんの絵にはテクニックがあって、画面の中で色が混ざらないような配慮をしたり、輪郭線を先に引いてから塗るのではなく同時に進行していくようなプロセスといった自分なりのメソッドを持ってる方とかが多くて、達者にアプローチしてくるなと思い見ていました。そういうのも一つの傾向だったんですが、もっと破綻してもいいと思いますし、そういう破綻したプロセスっていうものも見て面白いところもあるので、今は技術的な方向に向かっていますけど、もっと乱れて爆発的で実験的なものがあってもいいのかなっていうことを感じました。

ー松下さんから見てレベルが上がったと感じる要因について教えてください。

恐らくですが、プロの人の出品が増えたと思います。これまでにかなりの数を描いている方たちが多いだろうな、ということを予測できました。一次審査で約4300点の作品を眺めた時は気が付かなかったんですが、今日(審査日)選ばれた作品だけを見るとプロの方が多いのではという気がしました。

ー 一次審査では全作品の中からどのような基準で選ばれましたか?

一つの方向に偏らないように意識をしたんですが、あの中から10点選び出すというのはかなり骨の折れる作業で難しかったです。自分の中で基準を作っても、全部の作品を見ている中で基準がブレてくるのでできるだけフェアにやろうと思い、審査には4日くらいかかりました。
ウェブではサムネイルの小さな画面で見ることになりますが、実際に現物を見てみるとかなり濃密に緻密に描き込まれていたりして、そこまではなかなかモニター上では見えてこないっていうことが残念でした。審査員は、そこを予測して選考しなくちゃいけないっていうところがポイントだったと思います。

ー原画を見ていかがでしたか?

コピックという画材の「加筆がしやすい」という特徴も影響しているのだと思いますが、シンボリックなものやミニマルなものっていうものはどちらかというと鳴りを潜めていて、たっぷり描き込んであって仕事の量が多いものが選考に残ってきたなと思います。
仕事の量がそのままアートの評価ってことではないんですけれども、そういう一つのアートの評価の流れというのが、コピックアワードの特徴なのかなっていうことを今日感じました。

ー審査員賞に選んだ「2020」についてコメントをお願いします。

新型コロナのことをテーマにしていて、いずれ今年を振り返ったときに、そういえばあの年はコロナだったよね、っていうことを思い出せるような作品だったので今年の象徴としては良いのかなと思ったのが一点。それと、言語的なアプローチをしている作品も多い中で、比較的詩を感じました。感情が溢れるようなアプローチをしていたのは、個人的には評価に値すると思います。

ーグランプリ、準グランプリの作品についてコメントをお願いします。

あそこの3点の中ではどれがグランプリに選ばれてもよかったと思います。角度をちょっと変えるとどれも評価できるので、どの作品も良かったと思いますが、僕の中で選んだグランプリの作品「silk hat cat」は技術的にアドバンテージがあるなと思っていて、画面の中で色を混ぜないような配慮、隙間を空けながらもいろんな色が混ざって、でも離れて俯瞰してみると、複雑な表現がされていて、近寄ってみると一つ一つの色が際立っていて…と実はすごく計画的に書かれた絵で技術的に高いなと思ったので、あえて評価をするとしたらそこかなと思って私は選びました。ただ本当に、どれも良かったと思います。

ー入選作品全体を見ていかがでしたか?

そうですね、技術というよりも世界がものすごく濃密に出ているものもありましたし、そういうものも散見できたと思います。もっとコンセプチュアルな作品があってもよかったのかなという気はしました。コピックという画材が、画面を水平に置いて描くのに向いているのでキャンバスに置いて、縦に置いて絵を描く人がアーティストには多い中どちらかというと仕事が画面の中で集約させていくような形になります。コピックという画材を使った時の絵の傾向、画風としてそういう特徴が現れていると思いますが、もっと引いて見たり、俯瞰で見たり、画面を立てて見たり、すぐに立って画面から離れて見たりするような環境が、コピックを通じてできるようになってくると、もっとレンジができるのかなっていう気がしました。
もっと描いている空間そのものがもっと膨らんでくるというか拡張してその環境が変わるともっと見え方が変わってくるのかな、という気はしました。

ー残念ながら選考に漏れてしまった方へコメントをお願いします。

コピックアワードのもう一つの特徴はテーマがないんですよね。なんでも描いていい、ということになっているので自分で何かテーマを見つけて、そのテーマに向かって描いていくと考えていただければ。
テーマに則して描ければそれはいいものになるし、テーマに則さなければうまくいかなかったっていう、自分で自分に課題を出すような考え方をした方が、作品はもうちょっと先にいけるんじゃないかなって気がしました。
選考する側からすると、テーマがあった方が「テーマに合ってるから良い・悪い」の判断ができるけど全くそれがないので、どんな作品も「良い」と言えちゃいます。そこがコピックアワードの面白いところなので、多岐に渡った作品が多く集まるというコンペの形としてはそれで良いと思いますが、描く人自身は自分自身で何かテーマを握った方が良いと思います。「何でこれを自分が描いているんだろう」みたいなことが自分で理解できている方が、作品は今表現できる限界のもうちょっと先まで行けるはずです。

ー次回の開催に向けて全世界の応募者に一言お願いします。

何かの可能性に向かって動くときに、「ないかも」と考えないで、「あるかも」と常に考えましょう。こういう表現はないよな、じゃなくて、あるかもでプラスで考えて、エントリーしていいかもってプラスに考える。評価をされる側に入れなくても、自分の中では絵を書いた事実は残り、それをステップにまた次にいけるので、自分のためにもチャレンジしてみていただきたいなと思います。

松下さん、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。 

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